無担保・無保証「芸者ローン」を始めた信組の地域密着度 (毎日新聞より)

今、東京都内のある中小金融機関の活動が注目を集めつつある。新宿区四谷に本部を構える第一勧業信用組合である。多くの金融機関が「貸し出し難」とぼやき、新規貸し出しが低迷するなかで、同信用組合は事業性ローンを着実に積み上げているほか、若者の創業支援などの事業で独自の領域を切り開いている。その取り組みの一端を紹介したい。

 

今年、金融業界で隠れた話題商品の一つとなった第一勧業信用組合の事業性ローンがある。その名を「芸者ローン」と言う。芸者さんが自分の小料理屋などを開く際の開業資金を融資しているのだ。というと、担保や第三者保証を付けたローンと思われがちだが、まったく異なる。無担保・無保証であり、ローン実行の可否を決定づけるのはお金を借りる芸者さんの人物評価である。究極の事業性評価と言ってもいいだろう。

そのために、同信用組合では東京都内にある6地域の花街にある料亭などを運営している組合の6人の組合長を「総代(そうだい)」に招き入れた。「総代」というのは、信用組合の独特の制度で、株式会社の株主の代表者にあたる。

同信用組合は「組合員からの紹介」をローン利用の条件としており、総代となった組合長による紹介を人物評価の軸に据えて、芸者ローンを提供しているわけだ。

この芸者ローンは同信用組合が独自に取り組んでいる活動のほんの一部にすぎない。むしろ、同信用組合への注目度を高めているのは若者を中心とする創業支援の取り組みである。

創業支援というと、新しい技術をもとに起業するベンチャーなどに向けた融資が連想される。ところが第一勧業信用組合の創業支援は、そうではない。もっと幅広い、飲食業の開店などへの融資である。

通常、事業性融資を受ける際の手続きは3期分の決算書をそろえるところから始まるが、新たに起業する場合には、そんな決算書があるはずはない。しかも、若者による事業開始となれば、資金も担保も持ち合わせていない。そこで、同信用組合は創業時の支援策として、創業希望の人たちを組織化し、同組合の職員がそのメンター(指導者)として支援する仕組みを作った。

しかも、資金提供は、創業赤字で債務超過になる部分には出資で応じ、売掛金や在庫などの運転資金需要にはローンで対応するという二段構えである。

そのために、信用組合としてはきわめて珍しい取り組みとして、2015年12月に「かんしん未来ファンド」と名付けたファンドを組成した。このほか、創業支援策として、東京都が設置した「女性・若者・シニア創業サポート」のローン制度もフル活用している。昨年、この制度を利用した同信用組合の融資件数は100件になった。ダントツの利用である。

すべての融資条件が「組合員の紹介」となっているように、同信用組合は組合員の相互扶助という地域金融の原点に立脚している。地域社会に根差しているからこそ、担保や第三者保証に依存せずに、人物本位の融資が可能になるような情報を得ることができるのだ。

第一勧業信用組合の新田信行理事長は、筆者の取材に対し、一連の取り組みを「当たり前のことをしているだけ」とさらりと言う。だが、全国各地の地域金融機関のなかで、このような活動に徹しているところはどれほどあるのだろうか。

同信用組合は今、地方の信用組合との連携を強めている。その一環として、同信用組合本部ビルの2階を地方連携オフィスとして、地方の信用組合が東京支店として活用できるように開放した。連携先は加速度的に増えて、最近では16信用組合を数える。

 

このネットワークを活用して、地方の産品を同信用組合の地盤である東京で消費する仕組みを作り上げつつある。例えば、地方の信用組合と共同で「農業ファンド」を組成し、地方の農作物を、同信用組合の取引先である都内の料亭など飲食店に販売することも具体化する。

 

山椒(さんしょう)は小粒でもピリリと辛い。第一勧業信用組合の活動は注目に値する。