通販型損保、IT融合で大化けの可能性 (フジサンケイビジネスアイより)

通信販売型の自動車保険が国内に登場してから今年で20年。

当初は外資系損害保険が先行したため、国内損保各社は“黒船来襲”と恐れたが、現在の通販型のシェアは自動車保険全体の8%程度にとどまり、思うような収益が得られずに撤退した企業も多い。

ただ、市場は微増を続けているのも事実。保険とITが融合した「インシュアテック」により、大化けする可能性もあり、国内大手損保も力を入れ始めている。

 

昨年4月、損保業界で一つの時代が終焉(しゅうえん)を迎えた。通販型自動車保険を日本で初めて販売したアメリカンホーム医療・損害保険が、新規の保険販売を終了したのだ。

親指と小指を立てて「電話」を示すポーズに、「チャンチャラチャーン」という耳に残る音色。「アメリカンホーム・ダイレクト」のテレビCMを覚えている人も多いだろう。

 

1997年の国内参入時は「市場が席巻されるのでは」と恐れられた。前年の保険業法改正と日米保険協議が決着するまで、日本の損保業界は国が徹底的に管理する「護送船団方式」だった。どの会社の保険に入っても条件はほとんど同じ。それが自由化されたことで、外資の参入や保険料の自由な設定が可能となり、アメリカンホーム保険が日本にはない通販型の保険を持ち込んだ。

 

通販型の最大の魅力は価格だ。保険を販売する代理店に支払う手数料が不要なため、保険料を安く抑えられるメリットがある。条件などによっても異なるが、代理店型の保険よりも一般的に3、4割程度は安いとされている。

欧州では自動車保険の4割が通販型の国もあり、関係者はその動向に固唾をのんだが、心配は杞憂(きゆう)に終わる。通販型保険の市場は予想に反して伸び悩んだ。

通販型自動車保険の販売から撤退したのはアメリカンホームだけではない。同社に続いて外資保険の参入が相次いだが、これまでに計6社が撤退や吸収合併に追い込まれている。

 

■ビッグデータ活用で個人に合った商品

国内の大手損保担当者は「同じような保険しか売られていなかった日本では、保険を選ぶという意識を持つ人が少ない。ましてや命に関わる保険を、通販で加入することには相当な抵抗があったのだろう」と分析する。日本では自動車ディーラーが保険代理店を兼ねていることも多く、ディーラーが薦める保険に加入することが少なくないという理由もあった。

 

通販型最大手のソニー損害保険によると、2016年度の自動車保険全体の市場は4兆1587億円で、そのうち通販型は3189億円。通販型のシェアは毎年微増を続けているが、今も7.7%にとどまっているのが実情だ。

ただ、ソニー損保の担当者は「市場は伸び続けており、シェアは20%程度まで伸びるのではないか」と話す。価格競争だけでは日本人はついてこないといい「いかに安心感を与えられるかが大事」なのだという。

実際、同社が昨年9月に実施したアンケートで、自動車保険を選ぶ際に重視するポイント(複数回答)を聞いたところ、「保険料」(64.8%)と「事故時の対応力」(64.6%)はほぼ同率だった。同社は、保険会社へ事故の報告をすると、1時間以内に担当者から連絡がくるサービスを手掛けているほか、顧客の口コミをすべてホームページで公開するなど、利用者に安心感を与える工夫にも力を入れる。こうした取り組みが功を奏し、同社の自動車保険は、他の通販型保険に比べて価格は少し高めにもかかわらず、1999年の販売開始から右肩上がりの成長を続けている。

 

こうした中、当初は代理店への配慮から通販型の販売に消極的だった大手各社もグループ内に通販型保険会社を立ち上げ、巻き返しを図っている。

 

SOMPOホールディングス(HD)のセゾン自動車火災保険は、綜合警備保障(ALSOK)と提携し、事故が起きた際に同社の隊員が駆けつけるサービスを展開。利用者からは「こわもての事故相手との間に入ってくれて助かった」などと好評という。同様のサービスは東京海上グループのイーデザイン損害保険も10月からセコムと提携して開始している。

MS&ADインシュアランスグループHDの三井ダイレクト損害保険は、国内外20万カ所以上の宿泊施設などで割引きが受けられるサービスを実施。契約を継続すれば割引率が増す仕組みも導入し、顧客をつなぎ止める戦略に力を入れている。

 

キャピタスコンサルティングの保険アナリスト、植村信保氏は通販型保険の市場について「ゆるやかに増加する傾向は今後も続くだろう。ただ、インシュアテックの技術が進めば、ビッグデータなどを活用し、個人に合わせた個別性の高いサービスや保険が生まれることも考えられる」と話す。

 

保険はもともとリスクが高い人も低い人も同程度の保険料を支払う「相互扶助」の考え方で成り立っている。しかし、ビッグデータを活用すると、個人のリスクをより細かく分析することが可能となるため、これまで以上に価格差が生まれ、加入者のニーズに合わせた保険商品の誕生や別業種からの新規参入の促進も見込まれるという。

幼い頃からインターネットに触れてきた「デジタルネーティブ世代」の保険加入が本格化すれば、今以上に保険を自らが選んで加入する流れは本格化するとみられ、植村氏も「通販型保険の市場は今後、大化けする可能性がある」と話す。