東南アジアにものづくりの鎖 (日本経済新聞より)

東南アジア諸国連合(ASEAN)では経済共同体の成立を背景に国境を越えた分業が進む。そのリード役になっているのがトヨタ自動車だ。車や部品を融通しあうサプライチェーン(供給網)を築き、2016年に域内で110万台を生産した。車種によっては域内部品調達率が約95%に達する。メードインASEANを支える「ものづくりの鎖」を追った。

 

マニラ郊外で飲食店を営むニール・ラモスさんはトヨタ自動車の新車を物色中だ。店には多目的スポーツ車(SUV)「フォーチュナー」、ピックアップトラック「ハイラックス」、小型車「ヴィオス」などが並ぶ。

だが生まれ故郷はバラバラだ。フォーチュナーはインドネシア、ハイラックスはタイ、ヴィオスなら地元フィリピン。工場はおろか生産国まで違う車が並ぶのは東南アジアのトヨタ販売店では日常風景だ。「いいブランドなら生産地は関係ない」。ラモスさんは話す。

 

トヨタは16年、世界生産の12%をASEANが占めた。5カ国に完成車9工場を構え、サプライチェーンはカンボジア、ラオスなどの後発国にも延びる。分業化を後押しするのが域内の貿易自由化の流れだ。15年末に発足したASEAN経済共同体(AEC)に前後して、自動車部品では主要6カ国で関税を撤廃。後発4カ国も来年に撤廃されることになっている。

 
数ある現地生産車種の中で、タイ製ハイラックスは域内部品調達率95%の「ASEANカー」だ。生産拠点のバンポー工場は約5千種類の部品の大半を域内で調達する。

 

カンボジア南西コッコン州。タイ国境から2キロメートルほどの場所で部品大手、矢崎総業のグループ企業、矢崎カンボジアプロダクツは12年からワイヤハーネス(組み電線)を製造する。数百本の電線や端子を組み合わせる作業には人手がかかる。

当初の現地最低賃金は月61ドル(6700円)とタイの2~3割。矢崎は若く安価な労働力に着目した。10時間かけて部材をタイから陸送し、完成品をタイのトヨタと三菱自動車に戻す。カンボジアの最低賃金は上がっているが、往復の輸送費や時間を負担してもコスト上の恩恵がなおある。

5年弱で数千人に増やした従業員は平均22.7歳。「当初だれも工場勤めのルールを知らず、遅刻や無断欠勤が多くて困った」と太田幸利取締役。矢崎タイ法人で20年以上の経験を積んだベテランのタイ人社員を管理職に招き、品質改善や効率化に努めている。

 

海を渡る部品も多い。マニラ郊外のトヨタ・オートパーツ・フィリピン(TAP)は月1万8千基の手動変速機(MT)を生産する。「初期投資が大きいため生産を集中させている」(福谷浩志社長)といい、製品の95%を輸出する。

 

域内で幾千もの部品を効率よく調達するサプライチェーンを持つのは販売シェアが8割に上る日本の大手メーカーだけだ。かつてインドネシアに駐在した日産自動車の志賀俊之取締役は日本勢の分散型生産ネットワークがコスト競争力を持つため、後発メーカーは進出しにくいと指摘する。「後発の米ゼネラル・モーターズや独フォルクスワーゲンは現地化で日本勢にかなわなかった」

 

今後もサプライチェーンは変化し続ける。人件費が上昇するタイなどから生産移転が一段と進み、ミャンマーを含めた後発国への産業集積が勢いづく可能性がある。東南アジア域内で構築し、さらに進化しつつある「鎖」はこれからも日本企業の強みになりそうだ。